



PCで動画や写真などの編集をしていると、データサイズが大きいため、どんどんHDD(ハードディスク・ドライブ)を圧迫し、あっという間に空き領域がなくなっていきますよね。それで10TBや12TBなど超大容量HDDの導入に迫られているユーザーも多いかと思います。
そこで検討したいのが、ヘリウム充填HDD。文字どおりヘリウムが充填されたHDDで、大容量化の実現などさまざまなメリットがあります。今回は、そうしたメリットなどを解説しつつ、WD(Western Digital、ウエスタンデジタル)の製品のおすすめを紹介したいと思います。
目次
ヘリウム充填HDDとは
まずは、ヘリウム充填HDDについて、従来のHDDと比較する形で見ていきましょう。
従来のHDDは空気で満たされているが、それが容量アップの障壁に…
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従来のHDDの内部は、外界と同じ空気(窒素4:酸素1の混合)で満たされています。ただし、密閉されているわけではなく、小さな空気穴があります。この穴から空気を取り入れ、その圧力によってデータの読み取り/書き込みをする磁気ヘッドを、記録面であるプラッタ(円盤)から上昇させています。
しかし、HDDの記録容量増大には、この空気が問題となりました。HDD内のスピンドルモーターによって毎分数千から1万で高速回転するプラッタには、空気の気流抵抗によりフラッター現象(風や気流のエネルギーによって起こる“はためき”や“振動”)が生じてしまいます。これを防ぐためには、プラッタにある程度の厚みをもたせる必要があり、この“厚み”のために搭載できるプラッタ数が制限されて(5枚程度)、記録容量のアップの障壁となっていたというわけです。
ヘリウムの充填で容量アップ!! さらなるメリットも
ヘリウムの密度は空気の7分1程度
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上記のような問題を解決するためのアイディアが、HDD内部に充填する気体を、空気ではなく、ヘリウムに替えることでした。
ヘリウムは空気と比較して分子構造が小さく、密度は7分の1程度しかありません。そのため、空気の代わりにヘリウムを用いれば、気流抵抗を減少させることができます。
プラッタ数を増やして物理的に記憶容量を増大
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ヘリウムの充填によって気流抵抗を減らせれば、フラッター現象が起こりにくくなるため、プラッタにある程度の厚みをもたせる必要がなくなります。つまり、プラッタを薄くできるということであり、より多くの枚数(7枚以上など)をHDD内に搭載することが可能となって、記憶容量をアップできるわけです。
故障率が減り、磁気ヘッドの位置決め精度も向上
フラッター現象は、磁気ヘッドによるデータの読み取り/書き込みの精度にも大きく影響し、HDDの故障の原因となることもありました。なので、ヘリウムの充填によって気流抵抗が減り、フラッター現象が起こりにくくなると、故障率も減少します。
また、ヘリウムの充填による気流抵抗の減少は、磁気ヘッドの動きのフラツキ抑制にもつながります。そして、上記のようにプラッタのフラッター現象が起こりにくくなったこともあって、磁気ヘッドの位置決め精度が向上する、というメリットももたらしてくれました。
省電力・発熱量の減少・静音性の向上
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ヘリウム充填による気流抵抗の減少で、プラッタの回転に必要な力が小さくなり、モーターの消費電力と発熱、そしてノイズが抑えられます。
また、プラッタのフラッター現象が起こりにくくなったことで、プラッタと気体との摩擦による発熱とノイズも少なくなります。
さらに、ヘリウムを充填するためにHDDを密閉する必要があり、これによって内部からのノイズが外に漏れにくくなって、静音性が向上します。

従来の空気で満たされているHDDの外観
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ヘリウム充填HDDの外観
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前述のように、従来の空気充填HDDには小さな穴があり、密閉されているわけではありません。もちろん埃が入らないようにはなっていますが、天板はネジ止めでも十分です。
一方のヘリウム充填HDDは、ヘリウムを充填するために完全密閉とする必要があります。また、ヘリウムは密度が低いので、極々わずかな隙間からでも容易に漏れてしまいます。そのため、天板の接合は従来のネジ止めではなく、より密着度の高い方式(レーザー溶接など)が用いられています。こうしたことにより、天板の形状が凹凸や継ぎ目のない、フラットな形状となっています。
ヘリウム充填HDDにはデメリットもある…
価格が高い
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前述のように、ヘリウム充填HDDはヘリウムを充填するために密閉する必要があるため、高い鋳造技術が必要となります。その他にも、内部のモーター軸受部分や接着剤などから発生する揮発ガスを抑える技術なども必要となることもあって、製造コストが上昇し、結果として価格が高くなってしまうというわけです。
データ復旧体制に課題
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ヘリウム充填のために密閉されているHDDは、復旧作業を行う業者にもメーカーと同等の高い技術力が求められます。なのですが、対応できる業者が今後どれくらい増えていくのかが課題と言えます。
【WD】ヘリウム充填HDD おすすめ製品
それではここから、WD(Western Digital、ウエスタンデジタル)のヘリウム充填HDDのおすすめ製品を紹介していきたいと思います。
WD Red NAS用 3.5インチHDD 10TB / 12TB
WD Red NAS用3.5インチHDD WD100EFAX 10TB
35,609円(税込)
WD Red NAS用3.5インチHDD WD120EFAX 12TB
44,407円(税込)
【WD Red 3.5インチ 10TB / 12TB】NAS用途向け、デスクトップPCでの使用も可能
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WD RedはNAS用途向けの3.5インチHDD(2.5インチはなし)です。シリーズのうち、10TBと12TBがヘリウム充填モデルになります(8TB以下は従来の空気充填モデル)。
本来はNAS用途向けなのですが、デスクトップPCで使用することはもちろん可能。なので、たとえばミドルタワーPCケースに複数台を搭載して、たくさんの大切な動画や写真データなどを確実に保存する、といった使い方に最適ではないでしょうか。実際に、信頼性や耐久性を重視する自作PCユーザーの間で、WD Redはかなりの人気を博していますよ。
ちなみに、上位グレードのWD Red Proもあります。違いは、最大16ベイのNASシステムに対応、回転数が7200rpm、ワークロード率が300TB/年、保証期間が5年間という点です。
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WD HDD 内蔵ハードディスク 3.5インチ 10TB WD Red Pro WD101KFBX SATA3.0 7200rpm 256MB 5年保証
52,696円(税込)
【WD Redの特徴】24時間365日の連続稼働に対応した高信頼性モデル
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以下に、WD Redの特徴を詳しく見ていきましょう。
WD Redは、独自技術NASware3.0の搭載などにより、NASの小さな筐体でRaidを構築するシーンに対応できる機能を有しています。具体的には、次のような機能になります。
「ロード/アンロードサイクル」とは、プラッタが停止した際に磁気ヘッドが退避する回数のことで、WD Redでは「600,000回」となっています。これは、後述する一般向けのスタンダードモデルであるWD Blueの2倍で、つまり2倍の耐久性があるということです。
NASではLANがボトルネックになるので、HDDの読み/書き性能がそこまで求められることはありません。そのため、スピードを追い求めるのではなく、発熱の抑制とのバランスが重視されることになります。そこでWD Redでは、「NASware3.0テクノロジー」によって磁気ヘッドの速度変化を抑え、発熱を抑える仕様となっています。
WD Redの動作可能温度は0~65℃です。これは、WD Blueの0~60℃よりも5℃高い温度となっています。
上記のようなことから、WD Redの製品保証期間は3年と、WD Blueの2年よりも長い期間が設定されています。
何らかの理由で読み出しエラーが出た場合、HDDは基本的に、エラーのリカバリをリトライし続けます。しかし、これが複数ユーザーの使用を想定したNASのRaid環境で起こってしまうと、「NASが応答しない」という事態になりかねません。そこでWD Redでは、リトライ回数を抑えて、ユーザーへの応答を優先する機構が搭載されています。これが「Raidエラーリカバリ制御機構」です。
複数台のHDDにデータを分散して書き込むことで、耐障害性や性能の向上を図る技術です。次のような種類があります。
補足:WDのHDDはカラーによって用途が異なる
■WD Blue:一般向けのスタンダードモデル
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WD 内蔵ハードディスク PC用途向け 3.5インチ WD Blue 6TB WD Blue WD60EZAZ-RT SATA 3.0 5400rpm 正規代理店品 2年保証
11,688円(税込)
一般コンシューマー向けで、スタンダードなモデル。3.5インチと2.5インチがあります。ヘリウム充填モデルはなく、従来の空気充填モデルになります。
■WD Black:一般向けのハイパフォーマンスモデル
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WD ゲーミング/クリエイティブ HDD 内蔵ハードディスク 3.5インチ 6TB WD Black WD6003FZBX SATA3.0 7200rpm 256MB 5年保証
34,597円(税込)
WD Blueと同じ一般コンシューマー向けですが、性能を重視するクリエイターやゲーマー向けのハイパフォーマンスな製品です。3.5インチと2.5インチがあります。ヘリウム充填モデルはなく、従来の空気充填モデルになります。
■WD Purple:ビデオ監視システム向け
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WD HDD 内蔵ハードディスク 3.5インチ 10TB WD Purple 監視カメラ用 WD101PURZ SATA6Gb/s 7200rpm 256MB 3年保証
34,375円(税込)
24時間365日稼働するビデオ監視システム向けの製品で、複数ストリームの同時記録・同時再生に適した制御(連続した領域に書き込むなど)を行う専用ファームウェアが搭載されています。10TBと12TBが、ヘリウム充填モデルになります(8TBは、従来の空気充填モデル)。
■WD Gold:データセンター向け
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WD 内蔵ハードディスク エンタープライズ向け 3.5インチ WD Ultrastar 12TB HUH721212ALE604 SATA 3.0 7200rpm 正規代理店品 5年保証
62,980円(税込)
データセンター向けの製品で、複数クライアントから同時アクセスがあった場合でも、高いパフォーマンスを発揮し、耐久性にも優れたモデル。10TBと12TBと14TBが、ヘリウム充填モデルになります(8TB以下は、従来の空気充填モデル)。
おわりに
今回は、WDのおすすめヘリウム充填HDDを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
HDDはこれまで、MRヘッド(Magneto-Resistive head)による高密度プラッタへの対応、垂直磁気記録によるプラッタの高密度化、流体軸受けモーターの採用による高速化・静音化など、さまざまな革新的技術により性能をアップしてきました。そして、今回紹介したヘリウム充填技術によって、さらなる進化を遂げています。今回の記事を参考にして是非、ヘリウム充填HDDを導入し、技術の進歩を余すことなく体感してくださいね。